町にお住まいのT子さんは昭和39年、東京で会社勤めをしていたときHさんと知り合い結婚、程なくT子さんの生まれ故郷のO町に親戚を頼って帰り、二人で土地を買って家を建てHさん名義で登記しました。
その1年後Hさんは病気で急死。
生前に聞いていたHさんの兄弟に知らせ葬儀を済ませましたがその時、Hさんには以前離婚した奥さんとその方との間に生まれた男子が東京にいることを知らされました。
当時その子供は小学生であったため、Hさんの遺産となった家の相続登記もその子の親権者であった離婚した奥さんに印鑑を貰わなければならないなど面倒であったのでそのまま放置してきたのだそうです。
その後、T子さんは別の方と結婚しHさん名義の家に住み続けてきましたが、自分の年齢的なことも在り今のうちに家の名義を自分の名義に変えようと司法書士に名義変更登記を依頼しました。
司法書士はHさんの生き別れの息子さんを捜し事情説明書と手続き書類を送付しました。すると、帰ってきたのは代理人弁護士からの内容証明で、自分にも権利があるはずだからその分を現金で払ってくれと言うもの。
この件はかなり難しくどうにもならない案件でした。
ご主人名義の財産ですので、当然、先妻のお子様にも2分の1の相続権が発生しています。
家の評価額は800万円程度でしたが、半分を支払えといっても年金暮らしのT子さんにはそんな蓄えはありませんでした。和解する為の現金を作るには家を売らなければなりませんが、家を売れば住むところがなくなってしまいます。
弁護士に相談したとしても相手が法定相続人であり2分の1の相続権を持っていることは事実である訳ですので、でき得る解決法といっても支払いの方法についてどう和解するかだけの話になってしまいます。
もっとも、時効取得の訴えを起こすことは可能ですが、夫の子供の存在を知った経緯からすれば、このケースでは認められないと判断します。
同じ被相続人ではあっても相続人同志は顔を合わせたこともない赤の他人の二人です。
相続を巡ってはお互い協議して歩み寄るしかありません。
例えば相続登記をしてT子さんが半分の賃料を払うなど…です。
愛する人のため、思いを残されておくこと、なんとも悔やまれた案件です。
解決できないままに更に考えれば、二次的な状況ですが、もしT子さんに不幸があればT子さんの相続権はT子さんの現在の夫に相続され更に複雑になります。この方にも身寄りがなければ、そこでこの不動産はアウトです。